― 工賃アップ政策の裏で、いま何が起きるのか ―
はじめに|なぜ今「工賃」がこれほど重視されるのか
厚生労働省は、来年度の臨時改定において就労継続支援B型の評価軸を「平均工賃月額」により強く連動させる方針を示しています。
背景には、「B型が“福祉的就労”にとどまり、経済的自立につながっていないのではないか」という長年の指摘があります。
工賃は、利用者にとって
- 働いた成果が数字で見える
- 自己肯定感や生活安定に直結する
という重要な要素である一方、事業所の努力だけではどうにもならない構造的課題も抱えています。
今回の改定は、そうした現場に大きな転換を迫る内容と言えるでしょう。
現場への影響と課題
① 工賃アップへの強いプレッシャー
平均工賃の基準引き上げは、事業所にとって「結果が出なければ報酬が下がる」評価制度を意味します。
そのため現場では、
- 新たな作業メニューの開拓
- 自主製品の付加価値向上
- 販路開拓(EC、委託販売、企業連携)
などが求められますが、
地域性・利用者特性・職員体制によって実行可能性には大きな差があります。
特に、
- 農村部
- 高齢・重度障害の利用者が多い事業所
では、単純な「生産性向上」には限界があります。
② 小規模・地域密着型事業所への影響
利用者数が少ない事業所では、
- 数人の工賃変動で平均値が大きく揺れる
- 安定した工賃水準を保ちにくい
という問題があります。
その結果、
- 報酬減
- 職員の処遇悪化
- 事業継続断念
といった“静かな撤退”が増える可能性も否定できません。
これは、地域の利用者にとって「選択肢の喪失」を意味します。
③ 制度改定への対応疲れ
近年、障害福祉分野では
- 報酬改定
- 加算要件の見直し
- 計画・記録様式の変更
が短期間で繰り返されています。
現場では、
「腰を据えて取り組もうとした矢先に、評価基準が変わる」
という声も多く、
管理者・職員の疲弊や離職リスクも無視できません。
利用者視点で見たメリットとデメリット
利用者にとってのメリット
工賃基準の引き上げがうまく機能すれば、利用者には次のような効果が期待できます。
- 工賃アップによる生活の安定
- 「自分の仕事が評価されている」という実感
- 一般就労やA型へのステップアップ意欲向上
特に若年層の利用者にとっては、
「働く=社会とつながる」実感を得やすくなる点は大きな意義があります。
見過ごせないデメリット・リスク
一方で、懸念される点もあります。
- 工賃基準を満たせない事業所の縮小・廃止
- 利用者が通い慣れた居場所を失う可能性
- 工賃重視により、
- 利用者のペースが尊重されない
- 苦手な作業を無理に割り当てられる
といった「支援の質の低下」が起こるリスクです。
B型の本来の役割である
「就労が困難な人でも、安心して社会参加できる場」
が損なわれてしまっては、本末転倒と言えるでしょう。
これから事業所に求められる視点
今回の改定は、単なる「工賃競争」ではなく、
支援の在り方を再定義するタイミングとも言えます。
重要なのは、
- 無理な工賃アップを目指すこと
ではなく、 - 利用者特性に合った作業設計
- 小さくても安定した収益モデル
- 地域企業・自治体との連携
を通じて、
「持続可能なB型運営」を構築することです。
また、
- 工賃以外の成果(生活リズム、社会性、自己肯定感)
をどう可視化し、支援計画に反映させるかも、今後ますます重要になります。
まとめ|「工賃アップ」と「居場所」を両立させるために
今回の就労継続支援B型報酬改定は、
「工賃を上げる」という明確なメッセージを現場に投げかけています。
しかしその一方で、
- 事業所の多様性
- 利用者一人ひとりの事情
をどう守るのかという課題も浮き彫りになりました。
制度の方向性を正しく理解しつつ、
- 数字だけに振り回されない
- 利用者にとっての「安心して通える場所」を守る
そんなバランス感覚が、これからのB型事業所には求められています。

